葉空ヨリに殺されたと主張する少女Y。彼女の過去には、俳優の秋吉征直とインフルエンサーのさゆぐらし、そして地元の有力者も関わっていた――!
 彼女の死に関わる三年二組の闇を暴いていく……!

 今もっとも世間を賑わせている小説がある。小説の名前は【青春小説家H.Yに殺されました】
 大手小説投稿サイト・ノベラブルで三話まで公開されている。
 驚くべきことに、その小説の作者は十五年前に自殺した少女だった。
 作者のYさんは、大人気作家・葉空ヨリに殺されたと主張している。
 同時期にYさんが在籍していたとされる三年二組の卒業アルバムが公開された。Yさんを除く二十九人の中のだれが葉空ヨリなのか、と大きな話題を呼んでいる。
 さらにこの三年二組には他にも有名人が二人いたのだから驚きだ。
 来期から深夜ドラマの主演も決まっている秋吉征直と、ミンスタグラムでフォロワー三十万人超えのさゆぐらし。
 彼らはYさんの死に大きく関係しているらしく【青春小説家H.Yに殺されました】の第三話でMくん、Sさんとして登場している。
 
 すでに亡くなっている少女の書く小説は、復讐なのだろうか……!?
 彼女の告発が事実なのか探るために、週刊文秋は小説の作家であるYさんの地元に向かった。

 閑静な住宅街の外れにその高校はあった。十五年前にYさんが在籍していた三年二組の面々はそこで青春を送ったのだ。
 我々は同じ三年二組だった数名にインタビューをすることができた。
 まずはDさん(仮名)に話を聞いた。Dさんは開口一番「いじめは事実です」と重い口を開いた。
 
「小説にも書いてあった通り、Yさんは四人組でした。話題になっているSさんと、それからCさん、Aさんと仲が良くて。Aさんは二年の時から仲が良かったんじゃないかな。
 私は全然親しくなかったですよ、その四人組はちょっと怖かったんです。今もこういう言葉ってあるのかな? いわゆる一軍ってやつです。
 とにかく目立つんです、四人とも。四人の言動でクラスの雰囲気も変わりますから、私みたいな三軍は常に様子を伺っているんです。
 だから、あれおかしいな。ってすぐに気づきました。Yさんがハブられてるんだって。YさんもYさんで、今まで私たちとなんてろくに喋ったこともなかったのに、私たちにすり寄ってくるんですよね。でも他の三人の目があるから、私たちもYさんとは関われるわけがないですし。
 いじめはよくある一般的な内容ですよ。無視や影口から始まって……ある日Yさんがずぶ濡れになって授業を受けていたときもありました。暴力的なものもあったんじゃないかなあ」

 Dさんは生々しく当時の様子を語ってくれた。今回の騒動はDさんも迷惑しているという。

「私たち三軍にとって一軍の諍いなんてまったく関係のない話ですよ。でも今回は三年二組全員の写真が晒されたじゃないですか。私なんてYさんとほとんど喋ったことないってくらいの関係性なのに容疑者の一人にされているんです。
 私はまだ地元に住んでいますから、話題になってるねって声をかけられます。もちろんいい意味ではないですよ。
 あなたがYさんを殺したんじゃないの?って。そんなわけないのに、嫌な目を向けられてすごく迷惑しているんです。否定しても同じクラスだったんなら同罪だよねって。
 最近会っていない知人には、実は葉空ヨリなんじゃないかって疑いまで向けられましたんですよ。いじめをした人物は少数なのに、三年二組全員が巻き込まれてしまって困っています。早くこの騒動は終わってほしいです」

 Dさんもフルネームと写真を世間に晒されている。彼女にも疑いがかかり、生活が送りづらくなったそうだ。
 Dさんは葉空ヨリが誰なのか早く明らかになって、自分の生活が落ち着いて欲しいと語った。
 次に話を聞いたGさんは、Mくんについて証言をした。

「諸悪の根源はMくんですよ。MくんはYさんからSさんに乗り換えただけではありません。Sさんたちのいじめに加担していました。
 それから夏休み明けに、Yさんが下級生の男にまとわりつかれていたのを今でも覚えています。Mくんは自分の後輩たちに命令して、Yさんに彼らを仕向けたそうです。
 見ていない場所でひどいことをされてないといいんですけど……あまり考えたくないですね」

 Gさんは口をつぐみ、それ以上はなにも発してくれなかった。一体Yさんはどんなひどい目にあったのだろうか。
 最後に話を聞いたBさんはこの騒動を少し面白く見ているらしい。

「今回の告発は正直よくやった、と思いましたよ。僕はYさんに好感を持っていたんです。可愛くて明るくてクラスの人気者でしたから。他の三人なら睨んでくるようなことも、Yさんは優しく接してくれました。
 YさんはMくんの彼女でしたから、僕が恋心を持つことは許されなかったですけど。
 だからYさんが死んだとき、本当につらかったんです。
 いじめは間違いなくありましたよ。それなのに、まったくといいほど話題にならなかったんです。
 学校側がいじめを認めなかったですし……Yさんの親御さんは抗議したでしょうね。だけどその抗議が受け入れられるわけないんです」

 Bさんは表情を暗くして、いじめが隠蔽された事実についても語ってくれた。

「MさんもSさんも最低ですが、僕はCさんが一番恐ろしいです。Cさんは、地元の市議会委議員の娘なんですよ。
 だからYさんの自殺を問題には出来なかったんです。自殺どころか、寝不足で線路に転落しただけの事故と片付けられたはずですよ。
 当時気になって調べたので、よく覚えています。もちろん僕なんかが声をあげても潰されるだけです」

 Bさんは、葉空ヨリの正体がCさんではないとも教えてくれた。
 Cさんの父は地元の市議会議員で、Cさんは地元から出ていない。加えてC家に入った婿の選挙が間近に迫っている。地元の人なら皆Cさん一家の顔を知っているのだから、葉空ヨリではないのだとか。
 
「Yさんのことを忘れて、皆幸せになってるなんて信じられないし、復讐したくなる気持ちもわかりますよ!
 それにしても、こんな田舎の公立から有名人が三人も出たなんて驚きました(笑)
 僕が知っていたのは葉空ヨリだけですけどね。
 Mは俳優としてこれからブレイクするところだったんですっけ? あの男の被害に遭う女性が減ってよかったと思います。インフルエンサーだって好感度がなければ終わりでしょうね。あのアカウント見ましたけど、過去の印象と真逆で笑ってしまいました。
 このタイミングで告発した誰かに、僕はエールを送りたいくらいです」

 亡くなったYさんが今、復讐をしたいと考えたのは当然と言えるのかもしれない。
 来期のドラマ主演が決まったばかりの秋吉征直。さゆぐらしは念願の書籍刊行を控えている。葉空ヨリが原作の映画は水面下でいくつも進んでいたのだと言うのだから。

 Yさんのことを忘れて、幸せになろうとする彼らへの復讐なのだろうか。
 
 しかし取材を続けても、わからなかったことが一つある。
 それは、葉空ヨリは誰なのか、ということ。
 話を聞いた三人も誰なのかわからないと口を揃えた。
 そして我々が思い出したのは、先日スクープした秋吉と葉空の口論現場でのこと。
 このとき秋吉は葉空に向かって「お前は誰なんだ」と叫んでいたのだ……!
 三年二組の誰も知らない、葉空ヨリの正体。
 
 葉空ヨリとは一体誰なのだろうか。引き続きその謎を追い求めていきたい。