席には、昨日までと同じ並びでDグループのメンバーが座っている。昨日にも増す緊張感が漂っていて、善樹の心臓も自然に縮んでいた。こんなに緊迫したインターンに参加したのは今回が初めてだ。改めて、RESTARTのインターンの特異さを身に沁みて感じている。
「皆さん、おはようございます。昨日はよく眠れましたか」
部屋にやって来た社員の今田が、善樹たち一人一人の顔を見回した。みんな、頷くことも首を横に振ることもしない。友里なんか目の下にクマができていて、「察してください」と言わんばかりの目つきで今田をじっと見ていた。
「寝不足の方もいるようですね。最後の発表が終わるまで、頑張ってください。それから長良さん——」
今度は今田が美都の方に視線を合わせる。
「昨日は辞退するとおっしゃっていましたが、今の考えは?」
「辞退は、しないことにしました。最後までよろしくお願いします」
毅然とした態度の美都を見て、今田は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにふっと微笑んで「そうですか。良かったです」と返した。昨日もそうだったが、今田は美都にどこか期待を寄せている——そんなふうに見えた。
「それでは全員揃っているようなので、これから最終発表の時間に移ります。発表の順番はくじ引きで決めます。こちらの紙を引いてください」
今田は風磨がいないことは無視して、箱に入ったくじ引きの紙を善樹たちに見せた。彼の中でも風磨はとっくに見捨てられている。みんな、お互いの顔を見合わせた後、遠慮がちにくじを引いていく。
「紙を開いてください。書かれている番号が、発表の順番になります」
善樹はそっとくじ引きの紙を開いた。番号は「三」。ちょうど真ん中だった。一番目はなんとなくプレッシャーを感じるので最初でなくて良かった——とほっとしていた。
それぞれの番号を確認すると、一番目は友里、二番目は開、三番目は善樹、四番目は宗太郎、五番目が美都だった。
「順番が決まりましたね。坂梨さん、天海くん、一条くん、林田くん、長良さんの順に発表を行います。持ち時間は一人五分です。意外と短いので注意してください。それでは坂梨さんから、よろしくお願いします」
「はい」
今田がタイマーを五分にセットする。友里がその場に立ち上がり、話し始めた。
「私がこの中で犯罪を犯したことがあると思ったのは……林田くんです」
友里の口から出てきたまさかの名前に、宗太郎本人の眉がぴくりと動く。昨日の朝の議論では、どちらかと言えば友里は宗太郎側についていたように思えた。だが午後の議論で彼に詰められたことを、根に持っているのかもしれない。
「林田くんは最初、ニコニコしていて誰からも好かれそうだなっていう印象でした。でも、議論の途中で、みんなの自分史や性格について、何かにつけて難癖をつけていった。最初の優しかった印象はどこかにいってしまって、私は、彼の本質が優しさではないことが分かりました。彼の裏の顔は、何を考えているのかよく分からない。人の本性を見破ることに快感を覚えている。同時に、強い者として自分よりも弱い者をいたぶりたいという欲求があるんじゃないかって思いました。そんな彼だから、弱い者いじめをして、犯罪に繋がった——そんなふうに考えました」
友里は最初、宗太郎からの蛇のような鋭い視線を感じ取ったからか、周りの様子を窺うようにして話していたが、途中からは彼女らしく堂々と意見を言っていた。その後も、宗太郎の自分史が出来事中心で気持ちの部分が欠けていることなどを指摘して、「他人に対して常に後ろ暗い気持ちがあるから、気持ちの部分を省略した」というようなことを発言した。確たる根拠があるわけではないが、このインターンの課題としては正当な理由をつけて犯罪者を指摘すれば良いのだから、絶対的な根拠は必要ないのだろう。いかに審査員を納得させるか。肝はそれだけだ。
やがて友里の演説が終わり、同時にタイマーが鳴る。時間配分は完璧で、彼女が部屋でいかに発表の練習を重ねてきたかがよく分かった。
「皆さん、おはようございます。昨日はよく眠れましたか」
部屋にやって来た社員の今田が、善樹たち一人一人の顔を見回した。みんな、頷くことも首を横に振ることもしない。友里なんか目の下にクマができていて、「察してください」と言わんばかりの目つきで今田をじっと見ていた。
「寝不足の方もいるようですね。最後の発表が終わるまで、頑張ってください。それから長良さん——」
今度は今田が美都の方に視線を合わせる。
「昨日は辞退するとおっしゃっていましたが、今の考えは?」
「辞退は、しないことにしました。最後までよろしくお願いします」
毅然とした態度の美都を見て、今田は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにふっと微笑んで「そうですか。良かったです」と返した。昨日もそうだったが、今田は美都にどこか期待を寄せている——そんなふうに見えた。
「それでは全員揃っているようなので、これから最終発表の時間に移ります。発表の順番はくじ引きで決めます。こちらの紙を引いてください」
今田は風磨がいないことは無視して、箱に入ったくじ引きの紙を善樹たちに見せた。彼の中でも風磨はとっくに見捨てられている。みんな、お互いの顔を見合わせた後、遠慮がちにくじを引いていく。
「紙を開いてください。書かれている番号が、発表の順番になります」
善樹はそっとくじ引きの紙を開いた。番号は「三」。ちょうど真ん中だった。一番目はなんとなくプレッシャーを感じるので最初でなくて良かった——とほっとしていた。
それぞれの番号を確認すると、一番目は友里、二番目は開、三番目は善樹、四番目は宗太郎、五番目が美都だった。
「順番が決まりましたね。坂梨さん、天海くん、一条くん、林田くん、長良さんの順に発表を行います。持ち時間は一人五分です。意外と短いので注意してください。それでは坂梨さんから、よろしくお願いします」
「はい」
今田がタイマーを五分にセットする。友里がその場に立ち上がり、話し始めた。
「私がこの中で犯罪を犯したことがあると思ったのは……林田くんです」
友里の口から出てきたまさかの名前に、宗太郎本人の眉がぴくりと動く。昨日の朝の議論では、どちらかと言えば友里は宗太郎側についていたように思えた。だが午後の議論で彼に詰められたことを、根に持っているのかもしれない。
「林田くんは最初、ニコニコしていて誰からも好かれそうだなっていう印象でした。でも、議論の途中で、みんなの自分史や性格について、何かにつけて難癖をつけていった。最初の優しかった印象はどこかにいってしまって、私は、彼の本質が優しさではないことが分かりました。彼の裏の顔は、何を考えているのかよく分からない。人の本性を見破ることに快感を覚えている。同時に、強い者として自分よりも弱い者をいたぶりたいという欲求があるんじゃないかって思いました。そんな彼だから、弱い者いじめをして、犯罪に繋がった——そんなふうに考えました」
友里は最初、宗太郎からの蛇のような鋭い視線を感じ取ったからか、周りの様子を窺うようにして話していたが、途中からは彼女らしく堂々と意見を言っていた。その後も、宗太郎の自分史が出来事中心で気持ちの部分が欠けていることなどを指摘して、「他人に対して常に後ろ暗い気持ちがあるから、気持ちの部分を省略した」というようなことを発言した。確たる根拠があるわけではないが、このインターンの課題としては正当な理由をつけて犯罪者を指摘すれば良いのだから、絶対的な根拠は必要ないのだろう。いかに審査員を納得させるか。肝はそれだけだ。
やがて友里の演説が終わり、同時にタイマーが鳴る。時間配分は完璧で、彼女が部屋でいかに発表の練習を重ねてきたかがよく分かった。