後ろから声がして振り向くと、望月くんがいた。いつものもわもわした空間に、安堵のため息が出た。
「今日は、聞いて欲しい話があって」
「俺も。先に話していいよ」
 そう言いながらも目をキラキラさせて、口元が綻んでいる。嬉しいことがあったらしい。そんな様子だと話しにくいな、私は首を横に振った。
「望月くんから先に話して」
「え、でも」
「いいから。……私の話は、大したことないから」
 彼の話を聞いたら、少しは気が晴れるかもしれない。鬱屈としたこの気持ちが明るい方へ向かうことを期待しながら座ると、彼も横に腰かける。
「俺、好きな人がいたんだけど」
「え」
 そうなんだ。驚きを隠せないでいると、続けた。
「付き合えたんだ」
「お、おめでとう。……え、望月くん、好かれるの、嫌なんじゃ」
 矛盾している。昨日言っていたことと違いすぎる。戸惑う私に、彼は照れたように笑った。
「うん、まあそうなんだけど、それとこれとは違うっていうか、彼女のことは高校に入った時から好きでさ」
「そうなんだ……」
「自然体でいられるんだよね、あいつといると。あ、ほら、今日すれ違った時に一緒にいた子、あの子だよ」
「ああ、あの人なんだ……。望月くんとお似合いだね」
「そうかな、だったら嬉しいよ」
「じゃあこれから青春の始まりだ」
「何だそれ」
 嬉しそうに微笑む彼を見て、気持ちが落ち着いていった。彼が、ただの男の子のように思えたから。住む世界が違うと思っていたが、こんな風に恋が実って喜ぶただの男の子。
 それに、望月くんが孤独じゃないなら良い。私みたいに……。