「蒼菜……ごめんなさい」
「何が?」
 淡々と返され、どきりとした。それはおよそ彼女のものとは思えないくらい冷たい声。
 改めて浮き輪の紐を持たれる。まるで、私の生命を左右されているよう。
 生唾を飲みこみ、それでも私はそのことを忘れて目の前の妹に誠心誠意を見せなければならないと頭を下げた。
「これまでのこと。あなたにきつく当たってしまって」
「蒼菜のこと、どうでもよかった?」
「……どうでも良くないよ。あなたのこと、憎いって思ってた」
 嘘をついてはいけない。だから本当のことを言ってしまったが、後悔した。けれどもう止めることも出来なかった。
「私より頭も良くて私よりも器用で、可愛くて、誰からも愛される蒼菜が憎いって思ってた。あなたがいれば私なんかいらないんだって、あの家にいるといつも突き付けられる。それでもあなたが私を慕うから……傷付けても、傷付けても、私を嫌いにならないからっ」
 だから、より鋭利に、より研ぎ澄ました言葉をぶつけた、なんて誰が許してくれるだろう。
「蒼菜がこんなだから傷付かないと思った?」
 思わず顔を上げた。この青空の下には似つかわしくない、無理に笑おうと歪めた顔があった。
 私は、言葉に詰まった。実際のところ、そうなのかもしれない。だから、蒼菜にきつく当たっていたのかもしれない。手応えを感じないから。私も、彼女を傷付けても痛くも痒くもないから。
 最低だ。この子だって思春期を迎えたただの女の子なのに。