「私はお母さんに愛されてなかったから。蒼菜みたいに可愛がられてないの、見てたでしょ?」
「それは……。ううん、もしかしたら、蒼菜のことこそどうでもよかったのかも」
「そんなわけ」
 笑おうとしたが、彼女の表情が思ったよりも曇っていることに気付く。私は彼女の言葉を待つことにした。
「蒼菜ね、お父さんが言うように、お母さんはしつけとしてお姉ちゃんにあんなことやってるんだって思ってた。でもこの前お姉ちゃんとお父さんの会話を聞いて思ったの、あれがしつけだったんなら、何で蒼菜は同じようにされてないんだろって」
「それは」
 可愛がられていたからだろう。蒼菜が可愛くて、優秀で、怒るところ一つも見当たらなかったから。そう言おうとしたが、蒼菜は続けた。
「蒼菜のこと、どうでもいいからだって気付いた」
「蒼菜……」
 彼女の言葉には、信憑性を感じられた。そんな訳ないのに、本当にそうである気がしてくる。私は空を仰いだ。綺麗な青空が広がっている。
「それでも、家族で海へ行きたいの?」
「……楽しかったから。お姉ちゃんと今日遊んで特に思ったの。みんな、楽しい時は好きとか嫌いとかないでしょ?」
「蒼菜……」
 彼女に視線を向けると、真摯に私の目を見つめていた。その目は観察するような、私の心を見透かすような瞳をしていて、私の脳裏にこれまでの彼女への態度が蘇ってくる。
 同時に、これは私にも向けられた言葉なのだと気付いた。