しばらく二人でそんな風に遊んで、泳いで、蒼菜に浮き輪を引っ張ってもらって遠くまで行ってみた。
「蒼菜、泳げるようになったんだね」
 小さくなった人々を眺めながら呟いた。蒼菜は立ち漕ぎも習得しているらしく、余裕綽々の顔で笑った。
「うん、家族で毎年海へ行ってたでしょ? 私もお姉ちゃんも泳げなくてさ、お父さんもお母さんもつまらなさそうにしてたから。絶対来年は泳げるようになるぞって頑張ってたんだ。行かなくなっちゃったけど」
 あっけらかんと言ってのける。蒼菜はいつもこうだ。そこに悪気はなく、本当は嫌味じゃないことも知っている。そのまま思ったことを、事実を、言っているだけ。
 この青空の下では私もひねくれることを忘れて、そうだね、と返した。
「また家族で行けたらいいね」
「無理でしょ、私たちわりと大きくなっちゃったし。ああいうのって幼い内に行くもんでしょ」
「蒼菜たち次第だよ」
「……そうだね」
 本当に、そうだと思った。蒼菜は私の浮き輪に手を置くと顔を覗き込んできた。
「お姉ちゃん、前にお母さんがお姉ちゃんの話を一瞬だけしたって言ったの覚えてる?」
「忘れるわけないよ」
「お父さんがね、あれ以来お母さんを揺さぶってみたり、カウンセリングへ連れて行ったりしてるの」
「え、そうなの?」
 初耳だった。しかし言われてみれば、私は部屋にこもっていたり、紬の家に遊びに行ったりしていたから、知らなくても当然と言えた。
「揺さぶるって?」
「お姉ちゃんの名前を言ってみたり、思い出を話してみたり。お母さん、その時だけボーっとするの、スイッチが切れたみたいに」
「ああ……。嫌なんでしょ、私の話なんか」
 困ったように表情を歪めている。けれどこれもまた事実だ。