だとしたら、彼の中で消化できているのかもしれない。彼から離れ、安心してこの問いに答えてあげた。
「友達とお泊まり会してたの。寝かせないよって言ってたんだけど、本当に寝ないからすっかり寝不足。帰って来てからよく寝たよ」
 蒼菜が部屋を出たあと、私は寝続けた。異様に眠すぎたから。その時にはもう望月くんは夢には現れなかったから起きている裏付けにもなった。
「そっか、そっか、そりゃいいことじゃん」
 本当に、いいことだったのだろうか。昼間の望月くんの口ぶりだと、私を待っていたように思う。
 私は、やっぱり心配になって、一歩踏み出した。
「公園で、寝てたの?」
 顔を覗き込むと、望月くんの表情が少し崩れたように見えた。けれど見間違いだったと思えるくらいの一瞬。にこやかに「そうだよ」と答えてきた。
「家出みたいなもんかな。たまにやるんだけど、昨日の今日だったからタロちんも心配で見に来てくれたみたい」
 家じゃ駄目なの。そう聞こうとして、口を噤む。
 私が、踏み込んでいいことだろうか。
 私は、私の家族が変だと思っていたがどこの家族も何かしら事情があるということを知った。それは、紬の家を見て気付けたこと。
 望月くんにとって話したくないことなのかも。にこにこと表情を崩さない彼の様子に圧を感じるのもそのせいのように思えた。
 聞くな。言うな。忘れてくれ。そう言っているようだった。
 私は深く息を吐くと、彼から背を向け、歩き始めた。後を着いてきているのがわかった。
「ま、ここではさ」
 それは、彼なりの譲歩にも感じられた。何も話せない代わり。だから私は振り向いて、手を差し出した。
「辛いことも苦しいことも何もないよ。だからそんな時は、ここに来て青春でもしよ」
 にこにこと笑っていた顔がついに崩れる。驚かれた目が次第に細められ、下げ切った眉と反比例して、口元が嬉しそうに口角を上げる。私の手を取って、望月くんは大きく頷いた。