屋詰さんとの電話を終えた花乃子が改めて私と向き直る。思ったよりも真摯な瞳に、私は彼女の言葉を待った。
「急に電話が切れて慌てて来てみたら寝てるし、揺さぶっても叩いても起きないから焦った」
「どうりで頬が痛むわけだ」
 ついじんじんと熱を持つ頬を触る。ちょっとからかうつもりで言ったのだが、花乃子は表情を崩さず、深いため息を吐いた。
「もう起きないのかと思った。夢に取り込まれたのかと」
「何それ、そんな訳ないじゃん。ただの寝不足だよ」
 笑ってみたがやはり真面目な顔をしている。私は肩を竦めた。
「寝たら起きる。当たり前のことでしょ?」
「……だったらいいんだけど。じゃあ帰るね」
 やっと笑みを浮かべた花乃子に頭を撫でられ、気恥ずかしさでその背中を睨みながら見送った。
 あ、お礼言い忘れたな、と思っていると、入れ替わるように蒼菜が入ってきた。ノックをせずに入ってきた彼女を制そうとしたが、コーヒーの入ったマグカップを持っている手を見てやめておいた。
 テーブルにマグカップを二つ置いて、ちょこんと腰掛ける。私もその横に座った。
 この子がいなかったら、屋詰さんに伝えることが出来なかったかもしれない。
「まずは、ありがとう」
 さっきの屋詰さんの気持ちが今になってよくわかる。顔を見れなかったが、笑った気配が伝わってきた。
「蒼菜が花乃子を家に入れてくれたんでしょ? じゃなきゃ、お母さんが混乱するし」
「そうだよ、蒼菜の友達として。そしたらお母さんったらぺちゃくちゃお喋りを始めちゃうんだから困ったよ。まあ、花乃子ちゃんそういうのキッパリ言うタイプだからそんなに長引かなかったけど」