「もしもし、屋詰さん。電話変わりました」
「ああ、歩咲ちゃん。君のおかげでいっせは見つかったよ」
 息の上がった声。必死で望月くんを探したことが窺える。なのに、私は、と苦い顔になった。
「えっと、私、寝てただけなんですけど……」
「君の寝言がいっせのいる場所を教えてくれたんだ。それを花乃子ちゃんが俺に伝えてくれた」
「それって、もしかして公園ですか? でも、どこの公園かなんて……」
「言っただろ、俺たちは幼なじみなんだ。いっせの行きそうな公園なんて一つしかないんだよ」
 なるほど、と納得したのと同時に彼らの絆の深さを知る。私が思ってた以上に深いらしい。
「それで、望月くんは?」
「うん、起きてるよ。電話代わろうか?」
「いや……。いいです」
 今夜また会えるのだから。
 屋詰さんは少し咳払いをすると、何かを呟いた。よく聞こえなくて聞き返すと、苛立った声が返ってきた。何なんだ。
「ありがとうって言ってんだよ!」
「あ、ああ……いや、実際、見つけたのは屋詰さんなんで」
 以前私にあんなことを言ったからか、バツが悪いらしい。照れているというよりはそんな感じの彼に「もういいだろ、花乃子ちゃんに代わって」と言われてしまう。言われるがまま花乃子にスマートフォンを手渡して、立ち上がって窓の前に立った。
 雨はすっかり上がっていた。と言っても、眠る前土砂降りではなかったが、大雨が来たことは明白。路面が濡れ、水溜まりを作り、空には虹がかかっていたから。
 夏休みももう少しで終わる。遠い空の向こう、優しい太陽光が秋の訪れを教えてくれていた。