温もりを感じない。冷たさもない。なのにこんなにも雨に濡れているのは、彼の心を表しているのだろうか。
「キモいって……子どもみたいって……俺の今まで、俺は、もうどんな風に、振る舞えば……あんな、見たことない、嫌な顔で……」
「もういいよ」
 喋る度に大きく揺れる身体に囁きかけた。
「もういいよ、話さなくて。私はここにいるから。大丈夫、ここには、私と望月くんだけしかいないよ」
 どんな顔もしなくていい。どんな者も演じなくていい。ここでは、彼の本当の姿を知る私しかいないんだから。
 雨が徐々に弱まってくる。厚かった雲が少し薄まったように見え、私は目を瞑った。嗚咽と、雨音だけが耳に届けられた。
 目を覚ましたら、白い天井が視界に入って驚いて身体を起こす。
「あ、お姉ちゃん!」
 更に驚くことに蒼菜が私の目の前にいて、その奥に花乃子がスマートフォンを片耳にあてがって、見開いた目を私に向けていた。キョロキョロと辺りを見渡す。自分の部屋だ。そうだ、私、寝ちゃって……。
「あ、彼は!」
「大丈夫。見つけたって。無事だから安心して」
 花乃子は、スマートフォンを少し離して微笑んだ。その笑みに安心して肩の力が抜けていく。
「ごめんね、蒼菜ちゃん。少し席を外してくれる?」
「分かりました。お姉ちゃん、また後でね」
 素直に花乃子の言葉を聞いて部屋を出ていく蒼菜を見送った後、スマートフォンを渡される。ついおずおずと彼女を見ると「太郎さんから」と言われ、出ることにした。