「何があったか話せる?」
 私の言葉に、望月くんは顔をしかめ、目を逸らした。私もため息をこぼして、ブランコに視線を向けた。ついでに座り直した。
「この公園……見たことない。望月くんの思い出の場所?」
 横目に彼を見るが動きがない。肯定と取っていいかもしれない。
「望月くんしか知らない記憶が反映されるって初めてじゃない?」
 顔を覗き込んでみる。死んだような瞳が私を映し、僅かに光を取り戻したように見えた。
「いつもは……星村の方に反映されてたから」
「え? 違うよ」
 何を言ってんだか。まあ、こんな状態の望月くんだ。混乱しているのだろうと相手にしないでいると「さっきはごめんな」と発せられる。声に引っ張られ、顔を見合わせた。少し気持ちは落ち着いたらしい。
 雨も、心なしか弱まってきた気がする。
「見ちゃったんだ」
 ぽつりと、話し始める。私は口を閉ざして、耳を傾ける。
「男と、いるとこ。彼女が、その男と、手を繋いでるところ……キスをしてて、頭が真っ白になって、気付いたら、太郎が、男の胸ぐらを掴んでて……あいつも……彼女も、泣いてて……」
 ああ……。胸の痛みが、重みを乗せてくる。
「目が合って……問いかけたら、俺は……俺は……横に連れて歩くには、いい男だからって……」
 望月くんは手で顔を隠した。落ち着きを取り戻していた身体は震え、声色も揺れていた。痛ましいくらいにぼろぼろで、私は彼の肩にもたれかかってみた。