途端にふらふらと足取りがおぼつかなくなる。強い眠気に襲われ、母がリビングにいるがお構い無しに私は階段を登った。一段一段、身体が重い。
「その恋人が原因なの。よく聞いて、歩咲。あのね……」
 自室に入ると、ベッドに倒れ込んだ。呼吸をするのも億劫で、次第に電話の声が遠くなっていく。
 眠い。猛烈に。望月くん……望月くんを、探しに行かなきゃ……。
 雨で濡れた身体が冷えていくのを感じながら、意識が遠のいていった。
 目を覚ますと……というよりは、目を覚ました感覚が訪れると、雨が降っていた。誇張ではない真っ黒な雲が私の上で広がっている。これが夢だと分かったのは、その雨が冷たくなくて、私は濡れていないから。
 場所は公園のようだった。ブランコ、滑り台、砂場と屋根のついたベンチがあるだけの小さな公園。そのベンチに、望月くんがいた。
「望月くん、こんな昼間っから寝てんの?」
 冗談めかして言ってみたが、上がった顔を見てそれどころじゃなくなった。私は急いで彼の横に腰掛け、自分の服で彼の顔を拭く。
「どうしたの? びしょびしょじゃん、何で……」
 それ以上の言葉は出なかった。
 望月くんが、私を抱き締めたから。
 嬉しいとか、照れるとか、恥ずかしいとか、そんな気持ちは一切湧かなかった。彼は震えていた。寒いからじゃないことは明白だった。嗚咽が、聞こえてきたから。
「星村……やっと、来た」
 私は、胸を抉られる思いに駆られた。胸が痛くてたまらず、得体の知れない苦しさに襲われる。思わず彼の背中に手を回した。すると胸の痛みは増して、望月くんも更に腕に力を込めた。まるで痛みを押し付け合うように、傷口に塩を塗るように、お互い強く力を込める。