「凄いしかめっ面。知り合いじゃなきゃそんな顔しなくない?」
 思わず自分の顔を触る。眉間に指をやると確かにシワが寄っていて、ぐりぐりと伸ばしてみる。
「噂が嫌いなだけ」
「ふうん? そうだ、中学の時の」
 上手く話をかわせたようでほっと胸を撫で下ろした。それから改めて、彼が私たち下の学年にも人気であることを知り、尚更私たちの秘密は人には言わないでおこうと固く誓った。
 翌朝、紬にお礼を言って家を後にした。また遊ぼうと約束を取り付け、帰路につき、家の近くまで来るとスマートフォンが鳴る。花乃子だった。
「はい、もしもし。花乃子からなんて珍しいね」
 何となく空を仰ぐと、青空は隠れ、雲が厚く覆っている。もうすぐ雨が降りそうだ。つい足取りも早くなる。
「うん、ちょっと緊急? かな。ねえ、歩咲、望月さんと連絡取れる?」
 花乃子にしてはやけに早口だ。というか、慌てている? それに意外な名前が出たことに驚いた。
「望月くんと? 無理だよ、私たちお互いの連絡先知らないから」
「ああ、だから……。さっき太郎さんから連絡があって」
「太郎さん? 誰だっけ」
「屋詰太郎さん」
「ああ……」
 そういえばそんな名前だった。花火大会の日のことを思い出すとつい苦い顔になってしまう。
 雨がぽつりと頬に落ち、ぽたぽたとまばらだが降ってくる。急いで家の中に入った。
「そう、太郎さんから連絡があって望月さんと連絡取れないって、望月さんの家に行ってもいないみたいで」
「ん……恋人には?」