「そっか、そうだよね……私のにこちゃん。私の妹。……ありがとう、歩咲」
 お礼を言われ、彼女の方にしっかり顔を向けると、可愛い顔がはにかむ。甘えん坊の女の子、それでいて姉のような顔をしている。泊まって良かったな、と思えた。以前より紬のことを深く知れたから。
 それに私の方こそありがとうと言いたい。
 その日は夜通しお喋りに付き合った。彼女のクラスメイトのヤンキーのこと、友達のこと、苦手教科の先生のことや、かっこいい先輩のこと……。そこで望月一声の話になった。
「私の友達が望月先輩かっこいいって毎日毎日うるさくてね。あ、望月先輩知ってる?」
「うん、まあ。二年生のね」
 それ以上は言わないでおこう。面倒なことになりそうだから、と彼女の話に耳を傾ける。
「そうそう。でね、望月先輩女の子を取っかえ引っ変えしてるって噂があるんだ」
「そんな根も葉もない」
「ほら、先輩の周りって女の子多いじゃない? だからそう言われるみたい。私の友達も手出してくれないかなあって」
 言われてみればそうだが。ちょっと嫌な気持ちだ。望月くんはそんな人じゃない。
「望月……先輩、本命彼女がいるみたいだよ」
「え、そなの? ああ、こりゃあの子失恋だな。……て、歩咲、先輩と知り合いなの?」
 彼女に問われ、どきりと胸を鳴らす。何で、と何とか絞り出した声が震えていなかったか心配していると「だって」と怪訝な目を向けられた。