「本当はね、にこちゃんの声が私にだけ聞こえてることも知ってるんだ。そのことに気付いたのは……高校生になってからなんだけどね。プレゼントしてもらえた時も、ぬいぐるみだって思えてたはずなのに。いつの間にか、にこちゃんが私に話しかけてくるようになったの。ほら、今も。お姉ちゃん何言ってるのって文句言ってる」
 困ったように、でも幸せそうにくすくすと笑う。私が何も言えないでいると続けられた。
「私がこうだからお母さんもお父さんも心配してる。昔は病院にも連れてかれたんだよ? 今は、そっとしておいてくれてるけど……いつまた病気扱いされるかわからない。ねえ、歩咲、私の頭って病気なのかな?」
 不安そうに視線を向けてきた彼女の瞳が、ライトの光を吸収して揺れる。ぎゅっとにこちゃんの小さな手を握り、唇を噛み締めている。
 私は、頭を振った。
「病気じゃないよ。魔法が起きてるんだ」
「魔法?」
「にこちゃんの声が、紬にだけ聞こえる魔法」
「でも、異常じゃ」
「異常じゃない」
 きっぱりと言い切ってみせた。気持ちのいい響きが私の胸中に流れてくる。そうだ、異常じゃない。私だけの……。
「紬だけの大事なものを、誰かが否定していいわけない」
「歩咲……」
 見開かれた目が、細められる。紬の顔は、安心したように緩んでいた。
「歩咲って、ロマンチストなんだね」
「あ、いや、別に……」
 急に照れ臭くなって顔を逸らすと、ふふ、と笑い声が届けられる。それから紬は仰向けになるとにこちゃんを胸の上に乗せて、抱き締めた。それはそれは愛おしそうな顔をして。