綺麗な顔が嬉しそうに微笑む。私はこくりと頷きながら、彼女の言葉に少し引っかかりを覚えた。同時に、花乃子の言葉を思い出す。
 それって凄く異常なことよ。
 彼女の言葉と、この一言が頭の中で重くのしかかった。
 準備が出来たと紬が降りてきて、ちょうど皿も拭き終えたから私たちは彼女の部屋に戻った。新しく買ったという布団に潜り込むと確かに新品の匂いがした。電気を消され、同じく横の布団に入っている彼女に問いかけた。
「今日は寝かせないんじゃなかったの?」
「あったりまえでしょ! ちょー語り合お!」
 そう言って布団の脇にある小型ライトを付けた。私たちの顔がやっと分かるくらいの明かり。それから、布団の中から同じようにうつ伏せの状態で顔を上げさせられているにこちゃんも発見した。
「仲良しだね」
「たった一人の妹だもん」
「たった一人の妹か……」
 蒼菜の顔が浮かぶ。愛おしそうににこちゃんを見つめる紬の顔を、私はしげしげと眺めてしまう。私にはこんな顔出来ない。あの子のことをそんな風には思えない。
「歩咲は兄弟いる?」
「まあ、妹がいるにはいるけど仲良くはないから。私たち」
「そっかあ。……でも、羨ましいな、本当の妹」
「へ?」
「私、にこちゃんがぬいぐるみだって分かってるんだよ。驚いたでしょ?」
 へ、と間抜けな声が出てしまう。それから驚きを隠せなかった。
 彼女の脳では、もうにこちゃんを生きている妹として作り上げているものだと思っていたから。紬はぬいぐるみの頭を優しく撫でて自嘲気味に笑った。