彼女の母親も同じように話しかけているように見えたが、よく見ると紬の言葉に相槌のようににこちゃんに話しかけているだけだった。
 食べ終えて紬が部屋に布団を敷くため二階に上がると、私もずっと座りっぱなしというのが居心地悪くて、食器を洗ってくれている母親の横に立った。
「手伝います。拭けば良いですか?」
「ええ、お願い」
 手渡された皿をタオルで拭く。何だか変な気分。誰かの家事を手伝って、母親と呼ばれる人の横に立つなんて。ちらりと横顔を窺うと目が合ってしまった。ついどぎまぎしていると「歩咲ちゃんは」と声をかけられる。
「歩咲ちゃんは、にこちゃんのことどう思った?」
「え、あ……」
 今日一日聞きたいと思っていたが、タイミングを逃して聞けなかったことを不意に問われ、変な反応をしてしまう。落ち着くために、ふう、と息を吐いた。
「紬……さんが、本当の妹のように接してるからそうなのかなって」
「変に思わなかった?」
「……驚きましたけど、変だとは思わなかったです」
 これは本当だ。受け入れることが出来たのは、私の家に、紬とは対照的の人がいるからかもしれない。
「ただ、気にはなりました」
「というと?」
「本当は妹がいたのに、その代わりをあのぬいぐるみが担ってるのかな、とか……」
「ああ、ううん、違うの。私たちが共働きって聞いたと思うけど、昔ね、紬ににこちゃんをプレゼントしたの。妹だよって。そしたら、本当にそうなっちゃったみたいで、今ではもうすっかり。最初の頃は悩んだし、心の病気かと思って精神科にも行ってたんだけど、それ以外は普通の子だから、もう気にしないでおこうって。ただ、もう年齢が年齢だから……。でも良かった、歩咲ちゃんがいい子で。これからも、友達でいてあげてね」