人の家のお風呂なんて入るのはいつぶりだろう。明らかに匂いの違う、使い勝手も違うからどぎまぎしてしまう。湯船にゆっくりと浸かってみた。湯なんてどこも同じはずなのに、いつもの湯とは違ってどこかよそよそしく感じる。
 今日は寝かせないぞ、と紬が言っていたのを思い出した。あの様子なら本気だろうし、今夜は望月くんに会わないかもしれない。
 望月くんとは夏休みに入ってからも毎日夢で会っている。学校で見かけることもないからか、夢で会うとどこかそわそわしてしまう。それに、彼の生活がここ数日希薄なのか、あの花火以来夢が形を変えないことも少し気になる。
「今日は会えないのか……」
 大丈夫かな、と何に対する心配なのか分からない呟きをしてしまった。響いた声に恥ずかしさを覚え、別のことを考えると、夕方に見た映画の内容を思い出した。
 余命か、余命僅かだったら、私はどこへ行くだろう。誰と過ごしたいだろう。家族はありえないし、とりあえず花乃子に会って、それから紬とも会っておくだろう。そして……。
 浮かんでしまった行きたい場所と顔に、ため息が零れた。何となく顔も熱い。のぼせてしまったかもしれない。さっさと洗ってお風呂を出た。
 次は紬が入浴することになり、にこちゃんと一緒に脱衣所へ消えていった。
 彼女の入浴中、母親が帰ってきた。慌てて頭を下げ、自己紹介をすると疲れた顔が優しそうに微笑む。
「ああ、あなたが歩咲ちゃんなのね。紬がよくあなたのことを話してるの」
「え、そうなんですか?」
「ええ。休日はもっぱらあなたの話で持ち切りよ」
「そ、それは……」
 喜ばしいことなのか、悪いことなのか。紬のことを産んだだけはある綺麗な顔から目を逸らすと、ふふ、と笑みを浮かべていた。