「うん。昔からこんな感じだから家族の決まりで、日曜は二人とも休みを被らせてくれてるの。だから、どこかへ出掛けたり、家でのんびり三人で過ごしたりしてね」
「そうなんだ。良い家族だね」
 本心だった。照れたように笑う紬を見て、羨ましくなる。
 彼女は確かに寂しい思いをしてきたかもしれない。けれど暖かい家族がいる。娘を気にかけ、愛してくれる親がいる。それだけで十分幸せなことに感じられる。
 それに、と鼻歌を歌う横顔をちらりと見やる。
 時が経つにつれ、今や彼女にもクラスで友達と呼べる人が出来たようだった。夏休み前にもなると頻繁に私の教室へ訪れることもなくなっていた。適応能力は低いのかもしれないが、私に執着していた入学したての頃とは違う。それでも未だに私に来てくれるのだから、これが友達というものなのだろう。
 中学時代は、こんな風にしてくれる友達も、したいと思える子もいなかったな。
「ちょっと待っててね、紹介したい子がいるから」
「へ? あ、うん」
 唐突に制され、この場を去っていったかと思うとうさぎのぬいぐるみを持って戻ってきた。私の横に腰掛けて、ほら、と見せてくる。
「可愛い」
「でしょ?」
 嬉しそうに微笑む紬を一瞥してうさぎに視線を向ける。ピンクのベストに身を包み、首に赤いリボンをつけていてうさぎらしく表情はないが可愛い。
「私の妹なんだあ。ね、にこちゃん」
「にこちゃん?」
「この子の名前。川田にこ。ほら、挨拶してる」
 と言ってきて更に目の前に差し出してきたが、紬が操作する訳でもなく、お喋り機能がある訳でもない。ただ無表情なうさぎが目の前に来ただけ。