花乃子みたいに賢いわけじゃないからはっきり言われないと分からない。けれど反発したいことが一つ出来てしまった。
 夢の中のあの場所は私の居場所。大事に思わないなんて出来ない。だってもう、大事な場所になっているのだから。
 それをわざわざ言うのは憚られた。
「私、今日、望月さんと話してみて思ったの。中学時代の歩咲みたいって」
「そう? 私はあんなお調子者じゃないけど」
 花乃子に接している時の望月くんを思い出し、過去の私と重ねてみるが似ても似つかない。しかし彼女は、そうじゃなくて、と訂正した。
「確かにポジションというか、立ち位置は違うと思う。漫才コンビで言うなら望月さんはボケに回ってる感じがするし、歩咲はツッコミ側。でもそうじゃなくて……雰囲気かな、何だかそう感じた。だから、歩咲が心配」
 花乃子はわざわざ立ち止まって、心配、の部分を強調した。彼女の後ろに月が潜み、遠くから騒がしい声が聞こえてくる。お祭り帰りの人達だろう。
 今日の花乃子はよく分からない。
「花乃子らしくないよ、心配なんて」
 あえておどけてみせると、一瞬の沈黙のあと、口元に笑みを浮かべたのを見つける。
「だね」
 小さく返された言葉をきっかけに、私たちは再び横に並んで歩き始めた。
 その日の夢は、満点の星空の下、河川敷に私たちはいた。お祭りの場所だ。屋台はあるが、近付くことが出来ず、大人しく芝生の上に腰かけた。
「まだ食べ足りなかったのに」
 ぶつぶつと横から文句を垂れ流しているのを横目に、パアン、と大きな音を鳴らして花火が咲き誇った。紡ぐ言葉は止まり、ただ釘付けになる。