「私も別にいいから。早く行きなよ、彼女待ってるんでしょ」
 ひらひらと手を泳がせると、力強く掴まれた。その強さと温もりに驚き、声を出せないでいると「ありがとな」とはにかんで離れていった。
 もう掴まれていないのに、まるでまだ掴まれているかのように、その手を下ろすことが出来なかった。夢では感じられない、強さと温もりに、ここが現実で、現実の彼と、会って、話をしていたのだ、と途端に思い知った。
 パアン、と大きな音が鳴る。その音に引っ張られて視線を向けると、大輪の花が咲いていた。
「綺麗!」
「だな。夏はこれからって感じする」
 花乃子と、屋詰さんの会話を聞きながらも二人の声が遠ざかっていく。花火が音を立てながら咲き誇っていくのに、ここではないどこかに飛ばされるよう。
 じんじんと手が熱くなってくる。頬も、熱いかもしれない。汗のせいでべたべたする身体も気にならなくなっていた。
 ふと視界の端に、望月くんとその彼女を見つける。屋台の明かりが彼らを照らしているとしても、暗くて、人も多いのに、見つけてしまった。嬉しそうに見つめ合う二人。笑い合う恋人たち。その顔は、私にも、屋詰さんにも、向けたものとは違う。
 始まっちゃいけない。始めてはいけない。彼の青春に、元より私はいない。
 現実で、彼と会うのは、今日を最初で最後にしよう。一抹の寂しさを覚え、花火が散る度に切なさが胸を締め付けた。