「いっせはこれまで、色んな女に裏切られてきたし、女だけじゃない、男にも、おもちゃのように扱われてきた。あいつは人間不信なんだ」
 そういえば彼自身もそのことを少しだけ話してくれていた。頷き返すと、ため息が返された。
「やっぱり知ってたんだな。知ってても可笑しくないとは思ってたんだ、いっせがあそこまで気を許してるのも珍しいから。……人間不信になったきっかけがその、友達面して近寄ってきていっせの懐に入り、最後は裏切った奴だった、元カノだ。色々あったけどあれがトドメだったと言ってもいい」
「浮気されたっていう……」
「そこまで知ってるのか。そう、浮気現場を見てしまったんだ。よくある話だろ? でもいっせは心を殺された。仲の良かった……俺たち三人でよくつるんでいたその内の一人に略奪されてしまったから。俺も、いっせも、あいつらを責めた。だけどあいつらが吐いた言葉は、ざまあみろ、の一言。謝罪なんてなかった。元々男の方はいっせを恨んでたみたいで、女をけしかけたらしい。女の方も性格が腐ってるからそれに乗った、そんなしょうもない動機だよ。しょうもない理由で、いっせは殺された」
 はい兄ちゃんお待たせ、とたこ焼きが四パック入った袋を手渡される。ありがとうおっちゃん、と軽やかに返して受け取ると歩き出した。その背中を追いかけ、横に並んで顔を覗き込むと険しいものに変わっていた。
「だからこそ、言わせてくれ。軽い気持ちでいっせに近付いてるなら、やめろ。あいつと一生付き合うくらいの気じゃなきゃ付き合うな。俺はもうあんないっせは見たくない」
 厳しい目で見下ろされる。これはお願いじゃない。命令だ。
 言いたいことを言うために、私は立ち止まった。彼も立ち止まり、この喧騒と人が多い中、私たちはお互いを睨み、お互いの声だけに集中する。