「お姉ちゃんお祭り行くの? 蒼菜も行くんだよ」
 今から母に着付けしてもらうのだろう、浴衣を身体にあてがってくるりと回った。
 一応、私もお洒落をしたがやっぱり浴衣はいいな。
 胸元にリボンのついた黄色いワンピースとは違うそれに憧れを抱いてしまう。着付けも出来ないし、そもそも蒼菜みたいに浴衣もないから着ようがないんだけれど。
「綺麗だね、それ」
「えへへ、ありがとう」
 浴衣は水色をベースにした布地に、金魚があしらわれていた。きっと蒼菜によく似合う。見ていないのに、母が喜んで買った光景が目に浮かんだ。
「どっかで会うかもしれないね」
「会わないでしょ、花火もあるし、なかなか広いところだから。まあでも」
 靴を履き、家を出る前に妹に視線を向ける。無垢な顔で私を見つめ返していた。
「見かけても、話しかけてこないでね」
 自分でも最低なことを言った自覚はあった。家を出た時、お姉ちゃん、とか弱い声が届けられてしまう。傷付けても、傷付けても、無邪気に姉を慕う妹。優しい蒼菜。可愛くて愛される彼女を、私は……彼に見せたくないと思ってしまった。
 花乃子と合流し、望月くんたちと待ち合わせの場所へ向かう。花乃子も浴衣を着ておらず、オフショルダーのフリルがついたブラウスとショートパンツといういつもの装いよりも少しおしゃれした格好に安堵した。