「ごめんね。明日は絶対」
「絶対だよ? 約束だからね? 約束破ったら針千本飲ますからねっ。そろそろ戻るね」
 言いながら時計の針がもうすぐ予鈴を差すのを見て、慌ただしく自分の教室へ戻っていった。その背中を見送った後、気持ちを落ち着かせるために深く息を吐いた。
 放課後になると私は約束した時間になるまで教室で何をするでもなく、待った。一人、また一人と教室から人が減っていく。
 階下から生徒たちの部活動の声が聞こえてくる。夏の眩しい夕日が教室へ差し込む。扇風機で循環させている、少しだけ冷たい空気が夏の暑さをより主張させる。
 もうすぐ夏休み。休みの日は、好きじゃない。家にいたくないから。中学時代は遊んでくれる人が誰かしらいたから良かったが、高校生になってから土日が苦痛になった。でも外にも居場所がないから、やっぱり家にいるしかない。父が帰ってくるまで私はほぼ自主的に軟禁状態。だから夏休みは憂鬱。
 でもそれ以上に、楽しみだと思える。夏が好きだから。何かが起きそうな予感をいつも抱える。
「お待たせ」
 どきりとして、教室の入口にゆっくり顔を向けた。約束の相手は望月くん。その後ろに望月くんよりも身長の低い男の子がいた。まんまるの茶髪くん。いわゆる、マッシュルームカットというやつ。蒼菜にも負けないくらい大きな目、少し日焼けした肌は活発さを匂わせる。着崩した制服が彼を少し幼く見せ、一言で言えば、可愛い男の子。