「何を今更。お母さんが私を虐めてた時、何もしてくれなかったくせに」
「あれはお母さんがお前のことを思ってしつけてくれていたんだろう」
 ああ馬鹿馬鹿しい。もう話したくなくて、手を振り払った。
「そうだね。どれだけ暴言を吐いても分からないような馬鹿娘には叩かなきゃ駄目だもんね」
「歩咲」
「はいはいもういいです。私が全部悪いもんね。体調も良好です、ご心配なく」
 ちょうど父の奥の階段から蒼菜が降りてくるのが見えた。心配そうに窺うその顔を一瞥し、玄関へ向かう。早く家を出たい一心で飛び出し、花乃子との待ち合わせ場所へ向かった。
 花乃子から多少の労いを受け、学校へ行くと紬が犬のように駆け寄ってきた。
「大丈夫? もうしんどくない?」
「うん。今回はちょっと痛みと貧血が長引いただけだから」
「それなら良かった。じゃあ今日こそお泊まりの日程決めちゃう?」
 ニヤリと笑む彼女の前で手を合わせた。
「今日はごめん。ちょっと放課後、用事があって」
「えー、それ、今日じゃなきゃ駄目? 昨日も歩咲いなかったからつまらなかったんだよ。……て、ごめん。駄目だから断ってるんだよね」
 言ってから肩を落として謝罪をされる。あの日から紬は私が言ったことを何とか改善しようとしてくれているのは伝わっている。……それでもたまに、苛立ちが顔を出してしまうことがある。それが今なのだが、私もこの性格を改善していくために、そのまま頭を下げた。