「ええ……いや、いいよ。前に話した通り、私たち住む世界違うし……。それに説明もめんどくさいし信じてもらえないよ。だから秘密にしよって最初に取り決めたんじゃん」
 むしろ、本気だったんだ。彼の青春に、私は入るつもりはない。ただここで会って話をして……この場所を守れたら、それでいい。
 んー、と唸った後、じゃあさ、と提案してきた。
「そいつにだけ本当のことを話そう。本当に信用出来るやつだから言いふらしたりしないだろうし、きっと信じてくれる。な?」
 な、な、とやけに食い下がってくる。何でそんなに……と聞こうとしたが、そういえば以前、私に友達が出来て嬉しいと喜んでいた顔を思い出す。ため息が出た。あの顔を思い出したあとでは断りづらく、仕方なく了承した。
 朝が来ると支度をして、リビングへ行くとちょうど父と会った。母は台所で料理をしている。いつもの光景だった。そそくさと玄関へ向かうため、父の横を通り過ぎようとすると手を掴まれた。
「体調はどうだ」
 驚いた。母の前では、絶対私に話しかけないから。つい母の方に視線を走らせる。父も同じようにして、母の様子に変わりないことを確認すると私たちは目を合わせた。
「別に……私の体調なんて、どうだっていいでしょ」
 ふん、と鼻を鳴らされる。
「また余計なことをされたら適わんからな」
「だから聞いてやってるって?」
「そうじゃない。子どもの体調を気遣うのも親の役目だ」