「入れたよ。何で休んだの知ってるの」
「蒼菜が教えてくれたんだよ、学校に行く前にお前の様子を見たら寝てるって。たぶん休んだんだろうって心配してたよ、あの子は優しいから。それなのにお前は心配ばかりかけて」
「はいはい、悪かった悪かった」
「……俺が帰るまでお母さんの前には極力出るなよ」
「分かってるよ」
 一応さっきのことは伝えた方がいいだろうか、と思っていると「怪しいもんだ」とイチャモンを付けられたせいで言う気が失せた。
「昼飯は食べたのか」
「食べたよ」
「いいか、大人しくしているんだぞ。余計なことはするな」
 はいはい。言い終わる前に切られてしまった。
 父は、良くも悪くも母ファーストだ。私たち子どもは母のおまけ程度。仲のいい夫婦だと思うし、母にとってもそれが一番いいことなのだろうが、私にとって、昔は寂しいことだった。
 優秀な蒼菜は当然のように褒められ、愛される。対して私は平凡だった。決して、悪くなかったと思う。ただ目立つところがないというのは蒼菜より愛を貰えないということ。蒼菜よりどうしても劣ってしまう。両親の愛のランキングは私が最下位だったし、母には疎ましくさえ思えたのだろう。
 母は、父のいないところで私を虐めた。父が事を知ったのは私が母を虐め返した後だった。
「余計なこと、か」
 父にとって、あのことは余計なこと。望月くんを初めて校内で見かけた日の前日に私が起こした問題。母がもし起こしていた問題なら、父は卒倒したはず。
 私はここにいなくてもいい。いない方がいい。けれど家を出ることは出来ない。余計なこと、だから。学校へも、行かなくていい。行かなくても、誰も私のことなんて気にしないから。私はこの世界にいらない。
「……早く、夜になって欲しい」
 望月くんに謝らなくちゃ。布団を頭まで被って時間をやり過ごす。