「テスト全滅だあ」
 いつもの夢の中、私の横で大の字に寝転ぶ男が叫んだ嘆きは何とも情けないもので、その顔を見下ろしてやると本当に情けない顔と目が合った。
「望月くん勉強駄目って言ってたもんね」
「うん、本当に駄目。一応彼女に教えてもらったんだけど駄目だったなあ」
 そういえば図書室で二人がいるのを見た。その日のことはよほど楽しかったのか、このもわもわしていた空間が図書室を作り上げ、私たちは隣並んで座って、もちろん夢の中なのだから勉強なんかせずにただただ喋って、ノートに落書きしたりなんかして過ごした。
 夢が形を変えることは珍しいことではない。極たまに起きること。それもやはり望月くんの記憶に反映される。
「星村はどうだった?」
「あー、私はまあ普通かな。そんなことよりもうすぐ夏休みだよ、やっとだね」
「夏休み! そうそう、彼女とどこ行こうか迷ってて、海、あとはショッピングしたいって言ってたし、水族館行きたいし、あ、花火もあるし……。誘って大丈夫かな?」
「むしろ何で駄目なの。全部誘えばいいじゃん」
「迷惑じゃないかな……。あっちも友達と遊びたいだろうし……」
「迷惑だったら迷惑って言うでしょ」
 相変わらず優柔不断。でもこれが望月くんのいいところだ。うんうんと頭を悩ませている彼を見ながら、私も密かに夏休みのことを考えてみる。何しようかな、と考えて思い浮かべるのは花乃子と紬の顔。
 夏休みか。そういえば、望月くんを初めて外で見たのも長期休みである春休みのことだった。