「しつこいのは、もういいよ。なかなか治らないだろうし。でも大きな声は……そうだ、猫だと思って。赤ちゃんでもいいかも」
「猫? 赤ちゃん?」
「どっちも大きな音が苦手だから」
「確かに! あ……ふふ」
 くすくすと笑っている様子にやっと安堵出来た。
 残っているラーメンとおにぎりを食べ終えて、紬も食べ終えると、ふう、と一息ついて手を差し出された。何の手だろう。
「握手」
「何でまた……」
「改めて、友達になりたいから」
「ああ。やれやれ」
 めんどくさいな、という言葉を飲み込んで手を握る。ベタベタするのも好きじゃないが、今はめんどくさいだけで嫌だとは思わない。滑らかで温かな手に握り返される。
「これからよろしくね、歩咲。それと、叩いてごめんね」
「いいよ、もう。本当に私が悪かったから。……よろしくね」
 嬉しそうな顔を見て、彼女が私の生活の一部に入ったのを感じる。うん、嬉しいかもしれない。
 ふと視界の隅に望月くんと彼女の背中が映る。二人は談笑しながら食事をしていて、学校で彼を見るのは久々だと気付く。同時に、落ち込んでいたから周りを見ていなかったのだとわかった。
 望月くんのおかげだな。今日、お礼を言わなきゃ。遠い背中に微笑んだ。