「歩咲は……変わったよね、高校生になってから。中学の時はもっと明るかったし、冗談も言ってた。……言いたくなかったらいいんだけど、どうして? やっぱり、あの件で?」
 私は箸を止め、視線を落とした。ゆらゆらとラーメンの湯気が立ち込め、鼻腔をくすぐるがそれどころではなかった。言おうか言うまいか。彼女に視線を向ける。
 おずおずと聞いてきた今の彼女も、高校に入ってからの様子とは違っていた。しがみつくような、まるで子どもがお母さんを求めるような態度だったのが、今は、落ち着きを取り戻したように見える。お互い、一線を引いている。あの時みたいな間違いをしないように。
 今の紬なら、話しても大丈夫かもしれない。私は口を開いた。
「あの件が決定打だけど、前の私は……無理してたんだと思う。何かがあった訳じゃない、ただ……疲れちゃって。本当の私は明るくなんてないのかも。今の方が、気が楽だから。……だから、紬は新しい友達を作った方がいいよ。私といても楽しくないと思う」
 私の言葉を受けて激しく首を横に振る。ちょっとびっくりして仰け反ってしまった。そんなに大きな反応をしなくても、と思うがこれが彼女なのだから仕方ない。
 座り直すと、紬も真摯な瞳を向けてきた。
「歩咲は、私といたくない? いたくないなら、もう話しかけないでおこうって思う」
 その声は、少し震えていた。
 箸を置いて私は彼女の顔をジッと見つめた。食堂にいる全ての人の声が遠ざかっていくようだった。同時に、血の気が引いていく。
 苦手だったはず。彼女のことを、苦手だと思っていたはずなのに、いざそう言われると、寂しく感じる。勝手な感情を抱いているのはわかっている。