県内の病院に移れるよう両親が手続きをしてくれている中、病室に私と、蒼菜、望月くんだけになって、彼女が肘で小突いてきた。
「全く、お姉ちゃんやっぱり一声くん狙いだったんじゃん。このこの」
「うるさい」
 顔が熱くなる。つい睨みつけると、いや、と望月くんが遮った。
「俺がお姉ちゃん狙いだったんだよ」
「ひええ」
 私も、そして何故か蒼菜も情けない声が出てしまった。何でだ、と蒼菜を見てしまうと、ぺろ、と舌を出してくる。
「さ、俺は帰るよ」
「あ、じゃあ一声くん、一緒に帰る?」
 蒼菜の提案に、望月くんは首を横に振って病室の入口に立つと手を振った。
「ううん。挨拶はちゃんとしたいしまた今度。じゃあ、また明日、星村」
 さらりと凄いことを言って去っていく。私が頬の緩みと、体温の上昇を抑えられないでいると、蒼菜に再び肘で小突かれた。
 後から蒼菜に聞いた話だが、望月くんは格好をつけてあんなことを言っていたが、私が交通事故に遭ったことを花乃子に伝えてくれ、花乃子が屋詰さんに、そして望月くんの耳にも入ったらしく駆け付けてくれたとのこと。
 ただ半分正解とも言える、私の病室についた望月くんは激しい眠気に襲われたようだから。ちょうど、望月くんが傷付いたあの日、私も襲われた眠気と同じものを。
 それから転院し、毎日望月くんは来てくれたし、花乃子と屋詰さんも、神崎さんもグループを率いて、クラスメイトたちも来てくれた。やがて年が明け、退院を迎え、冬の寒さが厳しい一月の中旬、私は花乃子と始業式へ向かっていた。
「クリスマスの奇跡だね」
 花乃子があっけらかんと言ってのけた言葉に、私は納得して頷いた。