「情けないだろ。迎えに来たつもりだったのに、ここに来たら、やっぱりこの場所にいたくなったんだ。弱いんだよ、俺」
 私は頭を振る。望月くんは続けた。
「俺は行けないよ。行きたくない。俺は、星村のように生きられない」
「生きられるよ」
 歩み寄る。彼が後ずさるスピードよりも、早く。
「大丈夫」
 手を伸ばす。望月くんは頭を振ると、座り込んで顔を隠した。駆け寄ると小さな声でなにか呟いている。更に耳をすませば、微かだが聞こえてきた。
「死にたいって思ったんだ」
 その声は震えていた。彼を、抱きしめてみる。大きな身体なのに、小さく感じられた。
「ずっと、死にたくて、死にたくて、でも死ねるわけなくて、寝てしまえば気が楽で……。そんな時、星村に出会った」
 力を込めてみる。この思いが伝わって欲しくて。
「私が死んだってどうでもいいくせにって、どうせ忘れるくせにって、お父さんと先生に叫んでいた言葉が、俺の言葉そのもので……。でも、俺は、誰にもそんなこと、叫べなくて。こんな気持ち、悲しむだろうから、太郎にも言えなくて……。それを言ってのけた、君の姿が……俺にはかっこよく見えた」
 涙声で、一生懸命に話してくれるから、私は彼を離して顔を覗き込んでみた。目に涙をいっぱい溜めている。初めて、人の涙を綺麗だと思った。
「私もそうだったよ。死にたくてたまらない時にあなたに出会った。あなたに出会えて、私の生活は、青春に変わっていったんだよ、でもそこに……大事な人がいなくて。……いて、ほしくて」
 もう一度、彼を抱き締める。心臓がバクバクと音を立てているのが分かる。
「望月くん。私、あなたが好き」
 望月くんの身体が揺れる。私は続けた。
「ごめんね。本当はずっとずっと好きだったんだと思う。最初は、それこそ憧れだったんだろうけど、今は……あなたの傍にいる。傍にいて欲しい。明日も会いたいし、一週間後も、一ヶ月後も、一年後も、それからもずっと、いたいよ。そんな約束をしたい」
 どきどきする。目を覚ましている時だったら、きっと私の顔は熱いだろう。どきどきして、胸が痛くて、でもふわふわする気持ちよさ。
 少年の言葉を借りるなら、私はもうとっくにこれを恋と呼べる。