あの日、私は学校の屋上から飛び降りようとした。もう死んでしまえって身を投げようとした。担任教師にそれが見つかってしまって、翌日、親が呼び出され、父が来てくれた。教師に叱られ、父に叱られ、でもそんなことはどうでもよかった。
 職員室に呼ばれた道中で見かけた望月一声の姿が、酷く煌めいて見えた。
 私が欲しかった生活を送っていそう。それが第一印象。
 同時に、一目惚れした。話したかった。私のしょうもなかった人生に、光が差すような感覚。
 彼と、青春がしたい。そう強く願った。
 何で気が付かなかったのだろう。夢の中の内容は、彼の記憶が反映されたものじゃない。
 私が、彼としたかったこと。彼と青春を送っていただけ。
 顔を上げる。パキッと音が鳴る。空間に亀裂が入り、少年は、切なそうに笑っていた。
「思い出したんだね」
 私はこくりと頷く。
「じゃあお別れだね」
 私は、もう一度頷くと、公園の向こうで泣きじゃくった人を見つめた。
「助けてあげて」
 そう言うと彼が私の後ろに回り、背中を押してきた。更に音が鳴る。パキパキと気持ちのいい音を鳴らして空間に亀裂が入っていく。
 振り向いて、私は手を振った。
「君ももう待たなくていいんだよ。一人で帰るなり」
 私の言葉を遮って、うん、と笑顔を返してきた。
「もう一緒に帰ってくれる人を見つけたから」
 そう聞こえたのと同時に、空間がついに割れた。大きな音を立てて、ガラスの破片が舞う。足元には公園だった残骸が散らばって、少年はもういなかった。
 グレーの空間が広がっている。私は、望月くんに近付いて行った。
「望月くん」
「来ないで」
 張り上げられた声に、私は、首を横に振った。望月くんは立ち上がると私から後ずさった。その顔は酷く、せっかく顔がいいのに、ぐちゃぐちゃになっていた。
 なのに、煌めいて見えるなんて。