ふと公園の入口よりも向こうを見ると、さっきよりも近くに、その人はいた。うずくまって泣いていて、あの人誰だろう、と思うのに、胸が暖かくなる。呼びたくなる。
 なのに、名前を思い出せない。
 小さな手が私の手の甲へ重ねてきた。視線をやると、オレンジと黄色の石が交互に並んだブレスレットが目につく。こんなのしてたっけ。
 その瞬間、頭の中を暖かな風が駆け抜け、はたまた足の先からさぶいぼが迫ってくるような感覚に襲われる。
「大丈夫。全部忘れて、遊ぼう?」
 少年の声が遠のき、彼の姿が一回り大きくなった誰かと重なる。
「星村も同じ学年だったらよかったのにな」
 誰? 誰だろう。でも、本当は、私もそう思う。あの時、そう思った。
「少なくとも俺の周りにはおにぎりを十個も平らげる子いないよ」
 うるさいな。伝説みたいに何回も言わないでよ。馬鹿。
「恋しなくてもさ、誰か、頼れる人作って」
 何で、そんな……。そんな悲しいことを言うんだろう。
 彼の顔がやがてクリアになってくる。口元がうっすら見えてきた。
「現実でも星村にはそういう人が出来てほしい。そういう場所が出来て欲しい」
 やめて。そんなことを言わないで。
「俺を好きにならないで」
 あのね、もち……っくん。
「所詮、ここは夢の中だからさ……。だけど、俺を好きにならない星村が現実で生きてる。それだけで、苦しいくらい心強いから」
 ……っづきくん。本当はね。
「歩咲」
 名前を呼ばれた時のことを思い出す。ああ、と唸って両手で顔を覆った。悲しくて、嬉しくて、感情がぐちゃぐちゃになってしまう。
「びっくりした?」
「ま、まあ。名前、覚えてたんだ」
「そりゃ毎日会ってる人の名前くらい、さすがに覚えるよ。俺は?」
「え、一声……くん」
「何だ、星村も覚えてるじゃん」
 もう考えなくても、分かる。いつも頭の中にいた人。嫌でも惹かれてしまった人。ああ、思い出した。望月くん。望月、一声くん。
 あのね、望月くん。私、初めて会った時から、きっとあなたのこと好きだったんだよ。