私は思わず両手で彼の頬を寄せた。目を見開いて私を見る大きな目に近付いた。
「泣け」
「え、で、でも」
「いいから。痛かったんでしょ。泣いていいよ」
 私の言葉を合図に、彼の目からぼろぼろと涙が零れてくる。堰き止めていたのがなくなったかのように止まらず、彼自身も驚いていたようだが、やがて気持ちが追いついたのか、嗚咽を漏らし始めた。
 私は彼を抱きしめた。何故か、そうしたくなった。守りたい。そんな思いから動いた身体が、泣き声を受け止めた。
 やがて泣き止んだ彼を洗い場に連れて行き、擦りむいた膝を洗わせ、ベンチに腰掛ける。彼を膝に乗せようとしたが顔を赤くして嫌がったため、並んで座った。
「……お母さん、迎えに来ないかも」
「どうして?」
 ぽつりと呟いた言葉に首を傾げる。つきは泣きそうな姿を隠すように、体育座りをして膝と腕の間に顔を隠した。
「僕が泣いてばかりいるから……」
「お母さんは、泣いてると嫌って言ったの?」
「言ってないけど……泣いてると、お母さん、つまんなさそうな顔してる」
「心配してるんじゃない?」
「……してたらいいな」
 無理に笑いかけてきて、あ、と私は思い当たる節があった。
 父や、蒼菜が私に言った言葉とよく似ていた。彼らからは母の暴言などはしつけているように見えていた。同じように、いや、それよりも酷く、私は、子どもだから、と軽くあしらってしまったのだ。
 思わず彼の頭に触れた。固まったが、すぐに嬉しそうに目を細めてくれ、続けて撫でてみた。子どもらしい気持ちのいいふわふわの髪。
「された本人が一番分かるよね、そういうの。真下で見てるんだもん、傍で見てる人達はなかなか分かってくれないよね」