足先から、冷えていくのを感じる。髪を引っ張られているように頭が重い。ただ私を見ているだけの視線が突き刺さる。被害者面するその姿勢がより私を遠ざけ、人畜無害な、心配した顔が、私をこの輪から省いているように見える。
 あの感覚だ……。私は、財布とスマートフォンを手に取ると、部屋を飛び出し、旅館を抜け出した。
 走って走って、足がもつれ、息が切れ、いつの間にか流していた涙で視界が歪む。どこへ行っても、誰も私を知らない。私の知らない場所、知らない匂い、知らない人たち。
 孤独だ。私は、一人だ。死にたい。……死にたい。私が消えたって、きっとあいつらは悲しまない。こんな知らない土地で息を引き取っても、誰も私を見つけられない。見つけられないじゃないか。
 望月くん。
 ついにもつれた足を踏ん張ることが出来ずに転んでしまう。寒さのせいで、痛みが突き刺さった。
 痛い。痛いよ。何が家族団欒だ。何が家族旅行だ。何が、普通の家族だ……。
 立ち上がってふらふらと歩くが、悔しくてたまらなかった。
 その時、目の前がパッと明るくなった。反して、身体が硬直するようなけたたましいクラクションが鳴り響く。音のする方を咄嗟に振り向くと、鬼気迫る勢いで車が目の前に迫っていた。