……何かまずいことを言っただろうか。首を傾げると、父は私に向かって言い放った。
「これが、最初で最後になるだろう」
「は? ……ああ、そうなの。まあそうだよね、そんなポンポン行けるもんでもないし」
 そりゃそうだ。納得しかけたが、父は頭を振った。
「そうじゃない。今日はそのことも話そうと思ってな」
 二人は座り直し、私と蒼菜は顔を見合わせて、同じように座り直した。
「歩咲、お母さんが今もカウンセラーを受けているのは知ってるな?」
「……うん」
 母が回復をしていってるのは明白だが、まだ完全に、という訳ではないらしい。だから週に何度かカウンセラーを受けている。それがどうしたのだろう。
「お母さんは今も悪夢を見たり、フラッシュバックに襲われるんだ。知らなかっただろ?」
「知らなかった……」
 今の母は、私の前では普通に見えたから。チラリと母を見ると、目を伏せて、私を見ないようにしていた。
「今でもやっぱりお前が怖いんだと。だから今回の旅行の提案を受け入れることにした」
「どういうこと?」
「この旅行は、お前の送別会だ」
「はあ?」
 全く、意味が分からない。けれど、冷や汗が流れる。心臓がバクバクと音を立てる。頭は理解していないのに、身体が、あの感覚を思い出す。
「カウンセラーの先生が言うにはな、こうなった原因を遠退けるのが一番いいらしい。歩咲、お前を親戚の家に預けることにした」
「……はあっ?」
 裏返った声に驚くように立ち上がった。当然だが驚いたのは声じゃない。
「隣の県に祖父母がいるだろ、そこに預けることにしたから。もう話は通してあるから、年始に向かいなさい」
「ま、待って、待って。学校はどうするの?」