翌朝、キャリーケースを持って四人で車に乗り込むと京都へ向かった。車内では蒼菜を中心に盛り上がり、クリスマスソングを歌って、楽しいドライブから始まる。それなりに楽しくて、それなりに笑顔を浮かべて……。
 どんどん離れていく地元。県外を出ると、私は、自分が無理に笑っていることに気付く。離れたくない、と思ってしまう。その思考の先に、望月くんがいた。
 京都に着くとまずは旅館に車を停め、観光へ向かった。清水寺へ行き、金閣寺や銀閣寺を見て、食べ歩きをして、蒼菜が写真映えを求めたスポットを紹介してくれて、写真映えに特化したスイーツ、食事をして、やがて日が暮れ、私たちは旅館へ戻った。
 旅館でも食事をして、温泉に入って、卓球に勤しんだ。
 こんなに家族でなにかをしたのは久しぶりだった。お風呂だって、母と入った記憶はなかったが今回一緒に入ってくれた。卓球ではしゃぐ両親を見て、嬉しそうに笑う蒼菜も見れた。来てよかったな、と心から思う。
 いつの間にか、私の中の両親へのわだかまりも解消されていた。完全に、という訳ではないが、旅行マジックと言わざるを得ないだろう。蒼菜の言う通り、楽しい時は、好きとか嫌いとかそれまでの悩みが全部気にならなくなる。
 部屋に戻って両親は晩酌を始め、私たちはジュースで乾杯する。買ってきたお菓子をつまみながら、蒼菜が口火を切った。
「楽しかったねえ、お母さんったら今日すごく食べたんじゃない?」
「だってせっかくの旅行だもの。それに蒼菜が行きたいって提案してくれた、写真映えスイーツも本当に可愛くて」
 確かに蒼菜の次に母が喜んでいたかもしれない。父が「若返った気分だろ」と茶化す。
「本当にね。今は見た目も楽しめて、いい時代になったわあ」
「お母さんおばさんくさい」
 ドッと笑い声が巻き起こる。その中に私もいた。自然に笑えていた。ずっと、望月くんのことを頭の片隅に残していたが、笑うことが出来ていた。
「また来たいね」
 私がそう言うと、父はピタリと動きを止めた。母も笑顔を引き攣らせる。