家に帰ると、リビングで両親と蒼菜が席に着いて談笑していた。その横を素通りしようとしたが、蒼菜に腕を掴まれてしまう。
「お姉ちゃん、明日楽しみだねっ」
「明日? ああ、旅行か……」
 両親に視線をやると二人ともニコニコと笑みを浮かべている。
 結構前に蒼菜が提案していた旅行を、クリスマスにしようと決めたのは、意外にも父だった。それも私も参加で考えているらしくその意思は変わらないらしい。
 まさか私もなんて。
 母は旅行が決まってからみるみる回復していった。一時は私に怯え、やつれていたが今ではすっかりふっくらとしてきている。
「本当に私もいいの」
「当たり前じゃない。歩咲との思い出は空白なんだもの、今から埋めていかなきゃ」
 話しかけてもこの調子で、普通に返してくれる。私は頷くと自室に着替えに向かった。
 普通の家族に戻れたのだろうか。あの人たちと話し合う気はもうないし、このまま現状維持を続けて、いつか家を出らたらいいと考えている。
 けれど普通の家族に戻れたのなら、と思うと心は幾分楽になる。そのいつかが来るまで、気が重くならないで済むのだから。
 それもこれも、蒼菜のおかげだな。蒼菜が旅行を提案してくれたから母は前向きに考えてくれたし、父も家族として私を受け入れてくれた。
「お姉ちゃん」
 噂をするとなんとやら。と言っても私の中でだけだが、部屋の入口からひょっこり顔を出す妹に向かって「ありがとう」と感謝を述べてみた。
 蒼菜は驚いたようで目を見開いたあと、部屋に入ってきてはにかんだ。
「えへへ、良かった。明日は楽しもうね」
「うん」
 頷いて、二人でリビングへ戻った。