「壊してしまいたい?」
 私が首を傾げると、彼は頷いた。
「ここで、何度も何度も母親に捨てられたんだ。いっせの母親は浮気性で、彼氏が出来れば夫と子どもを置いて駆け落ち同然のことをする女性だった。その度にいっせは家から近いここに連れてこられて、ここで待っててねって言いつけられたそうだ」
「なんで、そんな……」
「……今にして思えば、母さんも俺を連れていくかどうか悩んでたんだと思うって、いっせは言ってたよ。あいつの父親はそんな母親を許す人だった。一見それは美徳に思えるだろうが、何度も自分たちの元に戻ってきては捨てていく母親の背中を見続けた子どもの気持ちを考えると、とても健全な環境だったとは思えない」
 私は拳を握りしめた。
 自分と、重ねた。私のことを忘れた母。そんな母を許し、私を糾弾した父。
 子どもの頃、親が全てだった。親が私の世界を作っていた。両親は神のような存在で、私たちは神様に見て欲しくて、愛されたくて、つい期待を抱いてしまう。
 けれど神様は私たちを見てくれない。愛してくれないし、裏切るし、捨てられる。神様は自分勝手なただの大人だと認識を変えたあの日、私は母を傷付けた。
「望月くんは……親とは、どうなったんですか」
「いっせの母親はもう何年も帰ってきてない。父親は、ほとんど家に帰らなくなった。月初めに金だけを置きに帰ってくるくらいだ。一応、成人するまでは面倒見るからって親父さんに言われたっていつだったか話してたよ」
 安心出来る、終わりじゃない。
 私は、もう両親と話し合う気はない。話しても無駄だと思うから。このまま学生を続け、いつか家を出られたらと考えている。
 けれど望月くんは、安心出来る終わりじゃない。その証拠に望月くんはこの公園の夢を見たのだから。
 彼は、まだ待っているのだ。
「いっせは今日……今日だけじゃない、よく休むようになったんだ」
「え、そうなんですか?」
 屋詰さんが頷いたのを見て、だから学校で見かけることが少なくなったのだと納得した。