「素敵な別れをしたからこれでいいって?」
 顔を上げると、花乃子は呆れたように目を細くしていた。
「別に歩咲の人生だからどう生きてもいいと思うし、夢に取り込まれないなら私はそれでいい。ただね、魔法がもう解けたのだとしたら、それがどういう意味かしっかり考えた方がいいよ」
 花乃子の言葉に首を傾げた。剥がされて、じゃあね、と手を振られる。別の高校へ向かう背中を見送って、私も学校へ向かった。
 やがて季節は、冬を迎える。
 時間が経つにつれ、花乃子の言っていた意味が分かってきた。
 本当にあれっきり、望月くんと夢で会わなくなった。私はそれなりに楽しい学生生活を送れていると思う。
 けれど朝を迎えるといつも虚無感と寂しさに襲われる。花乃子の言葉の意味を思い知らされる。最近は特に冷えるから、余計に。生きることを諦めたくなるくらいに。
 あの日から、望月くんを学校で見かけることも減ったような気がする。まるで、避けられているみたい。
 だからって、やはり直接会いに行こう、とは思えなかった。いや、少しは思ったが、踏み出せなかった。二年生の教室が並ぶ階まで足を運んだこともあるが、それでも足が竦む。未知の世界でもないはずなのに、よそよそしく、私の入るべき場所じゃないと言われているようで、進めなかった。
 十二月の中頃にもなると、ちらほらと雪も降る日が増えた。私はぼうっと窓の外を眺め、雪の落ちる先を追う。
 授業中だが先生の声を右から左へ流して自然とグラウンドに視線を落とす。
 そこに望月くんを見つける。久々に見た彼は寒そうに、体操服のジャージから手を出さないで震えている。少し、やつれたかもしれない。
 彼から視線を外さなかったが、いつかの日みたいにこっちを見ることはなかった。
 いや、視線を、外せなかった、の間違いかもしれない。
 あの時とは変わってしまった私たち。