彼の顔を覗き込んではにかんでみせた。
「何をそんなしょぼくれてるのか知らないけど、私たちだけの文化祭楽しもうよ。こんな青春、私たちだけだよ」
 少し元気になったらしい。見開いた目を細め、口角を上げて、そうだな、と呟く。私はもう一度肩で突進してみせ、歩き出した。
「体育館って、なんで?」
「知らない? バンドとか、ダンスとか、そういった出し物が見れるんだよ」
「へえ! そうだったんだ、楽しそうだなあっ」
 自然と胸を躍らせる。足早に向かうと彼も着いてきてくれた。
 望月くんが言っていたように、体育館の壇上ではダンスが繰り広げられた。一年生も、二年生も、三年生も、ここでは無邪気な顔で踊る。腕を振り上げ、足を駆使して、重心を傾けて、全身で表現する。
 思わず、うわあ、と感嘆の声を上げてしまう。
 当てられた照明も彼らが物にしている。華麗に、かっこよく、そしてときめきを覚えてしまうほどに輝いて、笑顔を振りまく。たまらず拍手を送った。
 バンドも、迫力のある演奏や心を打たれる歌詞が胸に響いた。自然とこの空間が、この時間が、隣にいるこの人が大切で大事だと感じさせられる。胸が締め付けられる。
 壇上の人達がこの場の主人公だと分かっているのに、私もそうな気がして、青春の短さに苦しさを覚えてしまう。この刹那を愛したい。苦しさの正体は、きっとその気持ち。
 全ての出し物の終わりを迎えると私たちは体育館を後にした。
「さすが夢の中だからか、より迫力があったというか、近くに感じられたね」
「だな。次は謎解き行ってみるか」
「へえ、そんなのあるの?」
「ああ、三年の教室に。行こっ」
 走り出した背中を慌てて追いかける。人が多すぎて、彼の背中を見逃さないように私も足を早めた。楽しい。ただ走っているだけなのに、そう思える。望月くんといるだけでこんなに楽しい。