こんなことを言いたいんじゃない。もっと、もっと、この嬉しいって気持ちの奥深くにある言葉を……。
 大勢の背中に、たどり着いた言いたかった言葉を張り上げた。
「ありがとう! みんなっ」
 クラスメイトたちが振り向く。その中心に、神崎さんと真咲くん、葉月くんがいる。みんな笑顔を向けて、親指を立ててくれていた。
 そうして夕方になると無事文化祭は終わりを迎える。大雑把に片付けを終え、翌日に細かい片付けをするらしく、打ち上げもその後になった。
 最後はグラウンドで閉会式を兼ねたキャンプファイヤー。私はクラスで固まりながら、眺めていた。
「なーんかさ」
 私の横に腰掛けていた神崎さんが肩を寄せてきた。つん、と香水の匂いがする。あんなに汗をかいたはずなのに、ギャルはいい匂いを絶やさないものらしい。
「青春って感じだったね」
「青春?」
「うん、文化祭準備もさ、今思えば青春だったなって。今日も楽しかったし。青春って後から思うもんなんだね」
「……だね」
 私も、彼女に肩を預けてみた。オレンジ色の灯火が神崎さんの身体を照らす。疲れた。でも、嫌な疲れじゃない。充実感に溢れた疲労感。彼女の言うように、この準備期間から今日のことをつい思い返してしまう。
 私も、私の生活にも、青春を乗せられていたのだろうか。だったら、嬉しい。嬉しいけれど……。
 私は、望月くんのことを思い浮かべた。いつの間にか望月くんはいなくなっていた。
 クラスのみんなは、山田の言ったことを深くは聞かない。けれど、望月くんには聞いて欲しい。勘違いをしているなら解きたいと思う。目をつぶった。
 ここに、望月くんがいてほしい。
 初めてそう思った。
 その日は、あまりの疲労にベッドに倒れ込むと泥のように眠った。