ざわざわと騒がしかった声を貫いた一声に、ピタリと声が止む。私は、いつの間にか瞑っていた目を開け、横に立つ葉月くんを見上げた。
「あたしにも見えない」
 後ろからも発せられ、振り向くと神崎さんが山田を睨みつけていた。真咲くんに腕を引っ張られ、立たされる。大丈夫か、と耳打ちされ、驚きながらも頷くと微笑みを返してくれた。
「何があったか知らないけど少なくともこんなところでそんなことを言うあんたの方がよっぽどあたしたちには極悪人に見える」
 はっきりと神崎さんが言ってくれて、体温が戻ってくるような感覚に見舞われる。身体の機能が、正常に戻っていく。
「そんな奴らに売る焼きおにぎりなんかねえから帰んな」
 真咲くんの怒った横顔に釘付けになっていると「バッカみたい」と山田は一蹴した。見ると顔を真っ赤にして震え、私を睨みつけていた。
「あーあー人がせっかく親切心で言ってやってんのに」
「うるせえ帰れ帰れ」
 ぶつくさ言っていた彼女を、神崎さんが押して教室から出した。釣られて他の子達も帰っていく。私が何か言う間もなく、嵐が過ぎ去ったことに呆然としてしまっていると教室にいたクラスメイトたちが駆け寄ってきてくれた。
「気にしないでね、あさっきー」
「あさっきー確かに余計な一言多いけど悪い子じゃないって分かってるから」
「みんな過去なんか色々あるから、こいつなんてもっと悪いことしてるから」
「あ、言うなよ!」
 他にも、みんながみんな慰めてくれる。その温かさについ熱いものが込み上げてきて、俯いた。
「うるさ……みんなで来て、どうすんの。お客さんたち待たせちゃってるよ」
 あ、確かに、とどこからか聞こえてきて、それぞれ配置に戻ろうと踵を返す。