おかっぱ頭だから、カッパ。そう名付けたのは私。今や私しか呼んでいないあだ名。カッパもとい山田夏希は、いじめっ子だった。
「あんたこそ……また、自分より弱い子虐めて満足してんでしょ」
 やっと絞り出した反論だが、カッパは鼻で笑った。
「私たち同じようなもんじゃん、何が違うの? あ、あなた、歩咲の友達?」
 標的を神崎さんに変えて、詰め寄ってくる。私は彼女の前に出たが横に突き飛ばされてしまった。
 そのせいで教室内の視線を集めてしまう。
「ちょうどいいや、みんな聞いてー! この星村歩咲はね、私を虐めた極悪人なんだよー」
「いじめって」
 そうじゃない。違うだろ。声を上げようとしたが、目の端に望月くんが映る。
 望月くんが、ここにいる。
 血の気が引いていく。
 私ね、最低なの……。いつか彼に晒した本音が、頭の中で響く。
「やっと歩咲と学校別れられたのに、ここでも同じようなことをするのかと思うとこのクラスの子たちが可哀想で。いわば親切心だよ、そこのあなた、名前は?」
「……神崎」
 ぶっきらぼうに、放たれた名前を山田は反芻して頷いた。
「神崎さん、気を付けた方がいいわ。あなたもこの女に虐められかねない。この女はね、教室内の一番目立つ子の懐に入って寝首を掻くんだから。そういう女なの、気付いた時にはもう遅い、クラスみんなこいつの味方になってるんだから」
 違う。違う。違うだろ。言いたいのに、望月くんの視線が刺さって、みんなの視線が突いてきて、声が出せない。痛い。怖い。あの日のことが思い出される。心臓が、バクバクと大きく音を鳴らす。
「俺にはそう見えないけど」