その日も、翌日も、翌々日も、翌週も、望月くんは惚気話を聞かせてきた。彼の頭の中は彼女でいっぱいらしく、しかし夢に反映はされなかった。不思議なことに学校でも彼を見かけることがなくなった。正直、それはそれで良かった。今の望月くんを見ていると、私が惨めに思えてしまうから。
「あの、聞いてる……? 星村」
「え……ああ、うん、聞いてるよ。毎日雨で嫌になるよね」
「聞いてなかったじゃん」
 肩を落として突っ込まれたが私的には衝撃だった。いつの間にか梅雨に入っていることに気付いたのは今日で、それまでぼんやりと過ごしていたから浦島太郎の気分なのだ。
「最近、星村ボーっとしてる? 何かあった?」
「別に」
「ふうん。……歩咲」
 名前を呼ばれて、心臓を掴まれる感覚がした。驚いている私に含み笑いを返してきた。
「びっくりした?」
「ま、まあ。名前、覚えてたんだ」
「そりゃ毎日会ってる人の名前くらい、さすがに覚えるよ。俺は?」
「え、一声……くん」
「何だ、星村も覚えてるじゃん」
 こんなことが、嬉しく感じるなんて。熱いものが込み上げてきて咄嗟に彼から背を向ける。戸惑う声を他所に、涙が流れた。
 誰かの生活に入っていたことがこんなにも嬉しいなんて。一方的にじゃない、傷付けるためじゃない、私の生活にも入って欲しいって思える相手がいる。これって凄く尊いことなのに、今になって初めて知った。