「おにぎりならぽんぽんお腹に入ると思うんだけどね」
「あさっきーだけでしょ、それ」
 笑い声を上げて、隣にいた子に、ねー、と同調を求める。私はわざと唇を尖らせた。
 あさっきーとは教室内での私のあだ名だ。神崎さんが付けてくれた。それを嬉しいと思うし、心地いいと感じる。
 初めから気負わずに、このままの私で接したから手に入れた心地良さ。私は神崎さんみたいに青春の主人公じゃなくても、今の位置が気に入っている。
 その時、きゃあ、と黄色い声援が上がった。入口の方を見るとそこに立つ人物にどきりとしてしまう。
 望月くんだ。一人で来たらしい。
 思わずポケットの中のブレスレットを握りしめた。
 私は、これは望月くんからのプレゼントだと思っている。そうでなければ間違えて誰かが私に手渡したとしか思えない。それほどこれを渡される心当たりがないから。
 クラスの女子が駆け寄り、いらっしゃいませ、とワントーン声を上げて出迎えた。
「何名様ですか?」
「寂しく一人だよ」
 肩を竦めてキザったらしく笑みを浮かべている。どこかでまた声が上がった。
「全然寂しくないです! 今どき一人なんて普通ですから! さ、先輩、特等席があるんですよー」
 女生徒は上機嫌に望月くんを窓際の一人席に案内すると、メニュー表を渡した。
「変わったメニュー名だね。全然味が分からないや」
「えへへ、そうでしょ? 変わったメニュー名にしよって、そこの子の提案なんですよ」
 突然指を差され、望月くんの目が私を見る。私を、映す。
 初めてのことだった。学校で、この青春の場で、彼が私を見るのは。
 勢いよく顔に熱が集まるのがわかった。ぶわっと体温が上がり、鳥肌が立ってしまう。隠すように頭を下げた。