「あ、歩咲っ、歩咲ったら」
 紬の声で我に返り、それでも私は彼女たちを、元彼女を睨み付けていた。
「何? あんた」
 驚いていたが負けじと彼女も顔を険しくし、私を見上げてきた。そして鼻で笑うと、ああ、と片手をひらりと上げた。
「分かった、一声のファンだ。よくいるんだよね。やめときなよ、あんな男。重いよー」
「それの何が悪いんですか」
 へらへらしていた顔が固まる。歩咲、と情けない声が聞こえてきたが、私は続けた。
「信用出来ない、させられないあなたが悪いんじゃないんですか。大体連れ歩くって何ですか、彼を犬かなんかだと勘違いしていらっしゃる? 馬鹿なんですか? 馬鹿なのはその金金の頭と言葉だけにしてくださいよ」
 口が止まらない。彼女の顔が真っ赤になっていく。なのに私の頭は冷えていった。冷静に、胸の内に怒りを孕んで。
「何よあんた、なんで見ず知らずの人にそこまで言われなきゃいけないわけ? ただのファンのくせに! それともあんた、あいつの差し金? 一声の何なのよ!」
「何でもないです。無関係です。ただこの楽しい空間に、あなたみたいなゲスがいると空気が淀む。分かりませんか? 人の悪口を馬鹿みたいな大声で話してたんですよ、あなたたちは。そんなものを聞いて、嬉しい人なんて少数なんです、例えそれが知らない人の悪口でもね」
 私が視線を走らせると、彼女も気付いたのか、同じように辺りを見渡す。それから息を飲んだ。みんな、私たち……いや、彼女たちに、冷たい視線を送っていた。
「出ていってください」
 誰かがぽつりと口にする。それを合図に、出ていけ出ていけ、とあちこちで声がする。私も習うことにした。
「出ていって」