五分後に入ってください、と言われてジッと待ちながら、受付の人にも施された特殊メイクを盗み見る。
 なるほど、確かにクオリティが高そう。耳まで裂けているように見える口、顔中傷だらけで服もぼろぼろのワンピースに身を包んでいる。そういえばいらない服を持ち寄るんだ、と望月くんが言っていたのを思い出した。
 どうぞと促されて扉を開けて中に入る。途端に冷気が身を縮こまらせた。クーラーがよく効いているらしく、照明が赤ということもあって不気味さに拍車をかける。
 そろりそろりと歩き始める。中は一直線だから迷うことはない、と望月くんが言っていた。それは本当のようで、まっすぐ歩き続ける。
 向こうの方では紬の叫び声が聞こえ、思わず肩を揺らしてしまった時だった。
 ロッカーの中から勢いよく人が飛び出してきて、おぞましい声を上げて迫ってきた。
「きゃあ!」
 つい声を上げて走り出す。すると続々、後ろから、前から、横から、恐ろしい顔の人が襲ってきた。ゾンビだ。まさにゾンビ。動きもさることながら、声で恐怖心を増幅させ、極めつけにはやはりメイクを施された顔。顔色が悪く、黒目を失って、血だらけの身体、肉が露出し、這いずる人までいる。
 喉が枯れるくらい叫び、やっと出口の扉が見え、安堵していると、手を掴まれた。
 思わず叫んで目をやると壁の隙間から人の手が飛び出し、私の手をガッシリ掴んでいる。
 しかし冷静さを取り戻せた。
 その手は冷房に当てられて冷たさはあるものの、他のゾンビと違って綺麗な手をしていたから。
 綺麗な人の手、それも男の人の手だと分かると、その手は私から離れ引っ込み、今度は拳を突き出してきた。拳が揺れる。まるで手を出せと言わんばかりに。