「ううん、幼なじみが屋詰……先輩? と付き合ったのはたまたまだよ。私も今日初めて挨拶したもん」
「ふうん? そのわりにはからし多めに言ってたよね」
 見られてた。額に手をやりたくなったが堪えて、あ、とわざとらしく大声を上げた。
「私そろそろ休憩の時間だ! お先っ」
 そそくさとエプロンを外して教室を飛び出す。変なの、と後から聞こえてきたが構わなかった。
 人の流れに乗りながら、詰問から逃れられた安心感で息を吐く。うちのクラスだけじゃなくあちこち大繁盛らしく、人が途絶えない中、紬の教室へ行くとちょうど休憩に入る彼女と鉢合わせた。
「あ、ちょうど良かった。歩咲、一緒に回ろ」
「うん、私もそのつもりで来た」
 やった、と喜ぶ彼女に引っ張られ、連れて行かれた場所はお化け屋敷。ここって望月くんのクラスだ、と思うや否や、紬が引っ付いてきた。
「実はここのお化け屋敷、クオリティが凄い高いらしくってさ。私、怖いの駄目なんだけど、好奇心が抑えられなくて」
「くっついたら余計危ないでしょ」
 言いながら受付に向かうと、受付の人に「一人で入ってください」と言われてしまう。横から乗り出して問いかけた。
「一人でっ?」
「まあないとは思うんですけど、防犯対策というか。お化け役が取り押さえられたら大変なんで」
 怯えて取り押さえて殴る……というイメージをしてみるが、大体の人はそんなことをするなら逃げるだろう。建前だろうな、と思いつつ私は頷いた。
「わかりました。じゃあ先入ろっかな」
「ま、待って、私が先に入る」
「紬が? 怖いんじゃないの?」
「うん、でも何か後ろから歩咲が歩いてきてるって思うと安心出来そうだから……」
「何だそりゃ。まあいいよ」
 どうせ合流出来ないのに一緒だろう。そのツッコミは心の内に留めておいて、扉を開け、暗闇に消えていく紬を見送る。